朝の霧は眩しく。

"理想と現実" の "現実"側

甘橙

家族でケーキを食べた。関東に出張していたお父さんからのお土産。わたしがバイトから帰ってリビングに入るなり、お父さんが
「おかえり!これ食べてみて! 」
と、テーブルの上に広げられたチーズケーキを指さした。元はホールだったはずのチーズケーキは残り数切れで、みんな自分の分は食べ終わったみたいだった。
「いただきまーす」
荷物を床においたまま腰を下ろして、ケーキを手に取った。おいしい。
それはただのチーズケーキじゃなくて、上に鮮やかなオレンジピールが乗っていて、透明なジュレで艶やかにコーティングされたものだった。もったりした重めのチーズケーキと爽やかなオレンジの香り、ピールの苦味、そしてジュレの甘さで幸せな気持ちになる。
「どう?」
隣に座っていたお母さんが、苦笑いの手前みたいな顔をしながら聞いてきた。
「おいしい。オレンジピール好きだし」
するとお父さんは「だよね!」と言いながら喜び、
お母さんは「えぇー」と言って苦笑いを完了させた。
「私と***は好み合うのに、エリは合わないのよね」
お母さんの言う通り、わたしはお母さんと妹とは好みが合わない。2人はファミレスにいくとハンバーグにはパンをつける。わたしはライス。お父さんもライス。2人は甘いものが大好きだけど、わたしたちはしょっぱいお煎餅の方が好き。
「お母さんたちと違って、ケーキの中でいちばん好きなのムースだもん」
「うわ、お父さんと同じ」
よほどお母さん達にチーズケーキの批判をされたのか、お父さんはニコニコしながら頷いていた。

オレンジは、漢字で書くと「甘橙」。読みは「あまだいだい」になるらしい。あまだいだい。口に出して読むと、笑顔になることに気付いた日の話。
2018.06.02